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藤沢周平作品内容5

は 〜 ほ
単行本書籍名 作品名 主人公 脇役  初出詳細 内         容
橋ものがたり 約束 幸助 お蝶 76年11号  週刊小説76年3月19日号から77年12月号迄断続連載された作品。各作品に江戸の橋を挿入して話が展開される市井ものの傑作。短編市井ものの作品としては人気抜群の作品である。その第一話。五年前に約束をした日がやっときて、約束の橋でお蝶を待つがなかなか現れない。五年の歳月がお蝶を変えていた。当日までは行くつもりであったが、我が身の今を思うと行けず、しかし最後には出かけて行く。逢った時の二人の会話がすばらしい。
江戸切絵図と橋ものがたりの世界
橋ものがたり 小ぬか雨 新七 おすみ 17号  逃げ込んできた殺人者をかくまう事になってしまったおすみ。許婚がありながらこの男新七に心引かれて行く。最後は二人して逃亡を企てるが、結局橋の上で別れる。藤沢さんはこういう女の心理の描き方が本当にうまい。秀作。
橋ものがたり 思い違い 源作 おゆう 29号 橋の上で毎日唯会うだけの女。ふとしたきっかけで彼女を助けるが、仕返しをされる。その後ぷっつりと姿が見えなくなるが、女郎屋に上がった其の店でかの女・おゆうと会い二十両の請け出し金の工面に頭を巡らす。人は朝出勤して夕方帰宅する人だけではない。
橋ものがたり 赤い夕日 新太郎 おもん 35号 『赤い夕日』 という題名の作品は、1963年、藤沢周平氏が本名で読売新聞に投稿され選外佳作となった作品、1966年オール讀物第29回新人賞で第3次予選迄通過した作品(実は後年「赤い月」と判明)、および1976年週刊小説に連載された『橋ものがたり』の一連の中で発表された3作品があるようです。それぞれ全く異なる作品か、加筆された作品か定かではありません。最初の作品を全く読んでいませんので・・したがって作品集一覧では併記してあります。ここでは1976年の作品を取り上げています。孤児のおもん、実は育ての親斧次郎がおり彼女自身幾つかの過去を持っている。亭主新太郎にも女がある様子。斧次郎の危篤の話から金をゆすられる羽目になるが、これがきっかけで夫婦仲が元のさやに収まり永代橋を二度と渡らないと心に誓う。
橋ものがたり 小さな橋で 広次 およし 42号 父親は使い込みで家出、母親は飲み屋勤めで酔って帰宅、姉は女房持ちの男と駆け落ち、最悪の状態の中で生きる子供の『広次』そして『およし』の毎日。最後の一行は特にいいしそして面白い。橋の名前が現われない変わった作品でもある。
橋ものがたり 氷雨降る 吉兵衛 おひさ 49号 隠居して、なんとなく家になじめなくなった主人公が大川橋で助けた女おひさ。色事ぬきで女を守り通す初老の男の揺れる気持ちを描く。こんな年寄りを目指すか?。とてもその余裕はないが・・。
橋ものがたり 殺すな 吉蔵 お峰 77年12号 婿取りをした船宿の女主お峰。身勝手な性格で挙げ句に男吉蔵と駆落ちをする。下町をあちらこちら転々としているが、亭主に見つかり気持ちが少しづづ変化して行く。結局お峰は夫利兵衛のもとに帰る結末となるが、吉蔵がお峰を追いかけると、女を殺すな!と武士善左エ門が己の過去の経験から吉蔵に諭す。赤い夕日が橋を染めているラストシーンは素晴らしい。
橋ものがたり まぼろしの橋 信次郎 おこう 77/7/22日号 美濃屋にもらわれて大きくなり、血のつながらない兄と結婚をするが、実の父親に関する作り話にうっかりはまってしまう。しかしよく糾すと橋の思い出に食い違いがあると言う人情話。この話は橋の扱いが面白い。
橋ものがたり 吹く風は秋 弥平 おさよ 77/9/23日号 イカサマ博打をして江戸から逃げ六年ぶりに江戸にもどる。ふと知り合った女郎のおさよのけなげさと、その亭主のいいかげんさに呆れ、結局六十両の金をおさよに渡し、自分は再び江戸を出て行く。『帰郷』(又蔵の火)に類似しているかもしれない。
橋ものがたり 川霧 新蔵 おさと 77/12/2日号 永代橋で見かけ欄干に倒れたおさとを介抱したことが縁で一緒に生活をするようになるが、おさとのことは何一つ不明である。六年たっておさとは姿を消す。しかし島送りとなった亭主の死を見届けて再び新蔵のところへ帰ってくる。タイトルがぴったりのように思える。
驟り雨 贈り物 作十 おうめ 別冊宝石
79年薫風号
年老いた日雇いの主人公が、亭主に逃げられた子持ちの女の為に泥棒をして金を渡し、自分は死ぬ。このシリースの題名のほとんどが、最後に出てくる情景。
驟り雨 うしろ姿 六助 おはま 小説宝石
78年2月号
酔っぱらうとすぐ人を連れてくる主人。或日乞食のようなばあさんを連れてきて、長居をされる。結局大店の隠居で帰って行くが、そこに到るまでの顛末が面白い。
驟り雨 ちきしょう! おしゅん 万次郎 問題小説
79年6月号
まさか夜鷹に身を落とすとは思っていなかったおしゅん。只で遊ばれてしまった万次郎がにくい。暫くしてばったり会った時、おしゅんは万次郎を傷つけていた。男と女の心の違いを感じる作品。
驟り雨 驟り雨 嘉吉    小説宝石
79年2月号
盗人に入ろうとして、適当な時刻まで雨宿りしながら待っている間に、通り過ぎるさまざまな人々。そこに出現した母と子。最後は盗人をやめ、哀れな子連れ女を背負って・・それなりの幸せがありそうな。少し変わった形式の作品。 表題作であり秀作。
驟り雨 人殺し 繁太 お澄 問題小説
78年11月号
長屋に入ってきた伊太蔵。手も付けられない暴れ者、誰も手出しができず困り果てている。お澄に惚れている手前もあり私(繁太)が遂に彼を殺す。しかしみんなの反応は・・。
驟り雨 朝焼け 新吉 お品 別冊小説宝石
78年初冬号
博打の借金をどうするか。迷った挙げ句情けない話だが、昔の女に頼む。昔の女お品の想いとそれを知らない浅はかな男の最後の別れ。この作品も男と女の心の違いを表す作品。
驟り雨 遅いしあわせ 重吉 おもん 週刊小説
79/2/2日号
やくざな弟を持って困っているおもんを助ける重吉。一癖もふた癖も有りそうな、何物か全く判らない重吉に、幾ばくかの不安を感じてはいるが、それでもおもんは幸せがあるのだと信じようとする。
驟り雨 運の尽き 参次郎 おつぎ 問題小説
79年9月号
色男で女垂らしの参次郎、米屋の娘おつぎに手を出したばっかりに婿にされ、厳しい監視の生活となるが、結局は二年経ったらいっぱしの商人になっていたと言う話。ユーモア作品の部類かも知れない。
驟り雨 捨てた女 信助 ふき 小説宝石
78年7月号
歯磨き売りの男とやや頭の遅れた女、男は目の前の幸せに気づかず流れ流れて島送り。やっと気づいた時はもう遅かった。この作品も女と男の気持ちの相違を描く。
驟り雨 泣かない女 道蔵 お柳 問題小説
79年3月号
女房持ちの道蔵。主人藤吉の家の出戻りのお柳に、女房と別れてほしいと言われその気になるが、いざとなって始めて気が付く女房お才との幸せの日々。これぞ藤沢周平作品らしい佳作。
花のあと 鬼ごっこ 吉兵衛 おやえ 問題小説
83年12月号
元盗人の吉兵衛。人に知られないようにして、水茶屋から身請けし、まっとうな生活をしていた『おやえ』が殺される。誰にも気づかれないよう犯人をさがし、仇を討つ。彼独特の方法で・・。私には題名が何となくしっくりこない。
花のあと 雪間草 松仙
(松江)
吉十郎(吉兵衛) オール読物
85年3月号
許婚から無理矢理離され殿の側室となり、今は尼僧となっている松仙が、吉十郎の友人に正義のためと依頼され、殿に元許婚の命乞いをする。優柔不断であった許婚が、今は大きな人間に成長したことを知りほっとする。自分のした仕事に足は疲れていたが松仙の気持ちは軽かった。佳作。
花のあと 寒い灯
(冬の灯)
おせん 清太 週刊小説
85/2/22日号
亭主の母親の悪態に対して、離縁を覚悟したおせん。家を出るが、結局夫の家に帰るまでの話。女衒の男を登場させ女そのものを描いている。女の描き方が実にうまい。冬の灯から寒い灯と改題した作品。
花のあと 疑惑 笠戸孫十郎 おるい 週刊小説
74/3/29日号
蝋燭問屋の主人が殺され、女房のおるいも縛られた事件。最後は養子に罪を着せようとしたおるいとその情夫の犯行と判るが、不義密通が御法度の時代のある意味で悲しい話。藤沢さんは『疑惑』・『密告』等二文字の作品として、笠戸孫十郎シリーズを想定しておられたような気がする。忙しすぎて書く閑が無かったのかもしれない。あるいは『出会茶屋』に変化したか。(以上は勝手な想像です)
花のあと 旅の誘い 歌川広重
   太陽
74年4月号 
名作、東海道五十三次の、そもそもの出発点から木曽路六十九次に到るまでの保栄堂と広重の葛藤を描く。個人的には北斎に対する見方に対して、広重を好意的にみているような気がするが・・・。浮世絵に造詣の深い藤沢周平ならではの作品。奈良屋茂左衛門を描いた『霜の朝』と共通点があるような気がするが・・・。北斎を描いた『暝い海』、歌麿が主人公の『喜多川歌麿女絵草紙』と広重の本作品で、有名な浮世絵師3人の作品をセットで楽しむことが出来る。大向こうをうならせるような、派手な北斎よりも、自然体の感じの広重の方が藤沢周平は好むのかも知れない。
花のあと 冬の日 清次郎 おいし 小説宝石
84年2月号
元豪商の娘でその後没落し身を崩したおいし。一杯飲み屋で会った清次郎が昔を思い出し、その身を案じ最後は結局ふたりが結ばれる。いい話である。
花のあと 悪癖 渋谷平助    オール読物
85年11月号
酔ってご機嫌になると人の顔を舐める癖のある主人公が、藩の不正の調査を命じられ克明に調べ上げ、成果を上げる。高く評価されるが、しかし最後悪癖が出て・・最後の評価は・・。
花のあと 花のあと 以登 江口孫四郎 オール読物
83年8月号
祖母の以登が、若き日の思い出を語る形式の作品。父から剣術の手ほどきを受けた以登が、手合わをした孫四郎を好きになるが、以登には既に婚約者が居たため縁が無い。一方孫四郎の婚約相手に関しては色々の噂があり,孫四郎は罠にかかり自害する。最後は女剣士としての技でその相手を討ち果たす。実に品のいい作品、単行本表題にしたのもうなづける。湯田川温泉とおぼしき湯治場が登場する。本作品は『以登女お物語』というサブタイトルが付いている。何故か?、想像するに以登という老女の語り口で、いくつかの話が綴られた古文書か日記のような物が存在するのかも知れない。そのためサブタイトルを付けたのかも・・と勝手に考えている。秀作である。映画『たそがれ清兵衛』はこの作品の形式をとったように思える。
半生の記 半生の記          藤沢周平最後のエッセイ集。文庫としても現時点では(1999/01)最後の刊行。(その後漆の実のみのる国等あり)両親のおかれた環境、御自身の生い立ち、闘病生活の思い出、亡くなられた奥様の事等ファン必携。それにしても文章のうまさには今更ながら驚く。同時にご自分の過去を正直に書き過ぎ?。
半生の記 わが思い出の山形         やまがた散歩に掲載されたもの。師範学校の学生時代の話が中心で、結構楽しい学生生活を送られた様子が目に見えるようである。半生の記も含め氏の穏やかな、控えめな性格が実によく出ている。
日暮れ竹河岸 夜の雪 おしず   文藝春秋
81年3月号
浮世絵を題材にした短編19作品からなる。
文藝春秋81年月3号から82年2月号迄連載の以下12編は、江戸おんな絵姿十二景色と題した超短編作品。父が亡くなり没落して、母の面倒を看ながら嫁に行く機会を無くした『おしず』の縁談話。新蔵と特に決めたわけではないが、待ちわびる気持ちが僅かにある冬の夜の風の音。
日暮れ竹河岸 うぐいす おすぎ    文藝春秋
81年4月号
自分の不注意から子供を死なせてしまった『おすぎ』。以降無口な女になるが、うぐいすの鳴き声で昔の自分を少しずつ取り戻す。春はそこまで来ている。
日暮れ竹河岸 おぼろ月 おさと きくゑ 文藝春秋
81年5月号
駆落ちして幸せそうな『きくゑ』をみて、好きでもない男の嫁になることに対する若き娘の、揺れる切ない心境。
日暮れ竹河岸 つばめ おきち    文藝春秋
81年6月号
十二歳から働き出した『おきち』。荒んで行く生活から、ふとした職人の言葉で自分を取り戻す。言葉は生きていることを思う作品。
日暮れ竹河岸 梅雨の傘 おちか    文藝春秋
81年7月号
清吉という客にはもはや金が無いとみた『おちか』が、新しい男を同輩から奪い取る。こういう女を書かせてもこの作品には、なぜか優しさが滲んでいる。これも藤沢流のなせるわざか。さみしい話。
日暮れ竹河岸 朝顔 おうの    文藝春秋
81年8月号
『おうの』は、夫の忠兵衛が取引先からもらったと言う朝顔の種を蒔き楽しんでいたが・・、それが妾の庭にもある事を知った時、本妻の心に芯からの悔しさが・・。
日暮れ竹河岸 晩夏の光 おせい    文藝春秋
81年9月号
三年前に男を作って家を出た『おせい』。男に捨てられ別れた昔の夫の消息を知るが、新しい女房との生活を垣間見て、これが当たり前、当然の報いだと胸の中でつぶやく。
日暮れ竹河岸 十三夜 お才    文藝春秋
81年10月号
昨日帰る予定の亭主が帰ってこない。世間では夫に別の女がいるような噂もある。まんじりともしないで『お才』が待っていると、信頼している夫が帰ってくる。土産に十三夜の為のすすきを持って・・。
日暮れ竹河岸 明烏 播磨    文藝春秋
81年11月号
吉原の花魁『播磨』。新兵衛は一目見た時から全てを無くしてもよいからと覚悟を決め播磨に通い、遂に店を手放す事になる。しかしそれも覚悟の上。男の清々しさが残る。
日暮れ竹河岸 枯野 おりせ    文藝春秋
81年12月号
一回りも年上の夫に死なれた『おりせ』。内心ほっとした気持ちが生まれている。後始末を頼んだ仙太郎から、全て話がついたという書き付けを受け取り、仙太郎の『これでもう会えませんか』の言葉にふっと今夜は少し飲みましょうか、とかすれ声で答える。
日暮れ竹河岸 年の市 おむら    文藝春秋
82年1月号
夫に死に別れ長男に嫁をもらったが反りが合わず、挙げ句の果てに二人揃って家出をされ、やりきれなくどうしようもない母親『おむら』の気持ち。
日暮れ竹河岸 三日の暮色 おくに     文藝春秋
82年2月号
紙問屋の女房『おくに』。空しさを感じながらあわただしい三が日が過ぎて行く中で、おもらいが現れる。それが昔所帯を持った元の亭主の変わった姿。不満は有るが今の生活に喜びを見出す。ここまでで一年が終わる。
日暮れ竹河岸 日暮れ竹河岸 信蔵   194号 以下7編は名所江戸百景と題した物語。別冊文藝春秋91年194号から214号迄連載。その第一話。裏だなから表店に移り一時の勢いで店の改築迄したが、その直後からばったり客足が絶えて、どうしようもなくなった信蔵。もはや金を借りる相手もいない中で、奉公仲間の六助が十両の金を貸してくれる。焼け石に水で、返す当ても無いが必ず返すといい、俺を信用してくれと言う。
日暮れ竹河岸 飛鳥山 その女    195号 主人公の名前が無い小説、子供の産めない女が人生を省みて、ふっとかわいい女の子供をさらってしまう話。さらわれた女の子にも哀れさがある。悲しい話であるが、なぜかほのぼのとしてしまう。
日暮れ竹河岸 雪の比丘尼橋 鉄蔵    196号 いい加減な人生を送ってきた60過ぎの男の哀れな人生の末路。店に行っても酒も出してもらえない哀れな男。挙げ句に人に絡んで怪我をし、それでも一人生きて行かねばならない命。人の好意さえも素直に受け入れられない男の話。
日暮れ竹河岸 大はし夕立ち少女 さよ    197号 十二歳のさよ、子供から大人へ変化して行く少女の微妙な心理を、幼い頃の生い立ちに絡めて描く。珍しく駄洒落?のある作品。想像するに藤沢さんは結構洒落がお好きでは・・。
日暮れ竹河岸 猿若町月あかり 善右衛門    198号 借金をしにきた甥に、無駄な金は貸せないと冷たく負い返すがやはり気になり後を追い掛けて三両の金を渡す。よかったと思う反面、苦い気持ちが生まれるという叔父としての複雑な心情。血の繋がりということの意味の深さを考えさせる作品。
日暮れ竹河岸 桐畑に雨のふる日 ゆき    208号 父の旅立ちが、妻子を捨て女との駆け落ちである事を知った娘の気持ちの微妙な心理。最後は父に対する気持ちを整理し、自分の幸せに向って歩き出す。
身近なところにあった幸せに気づき・・。
日暮れ竹河岸 品川州崎の男 みち    214号 甲斐性の無い男寡と結婚。あまりの情けなさにふっと行きずりの男と深い中に・・。一年ほどの付き合いの後ふっと男が消える。その男が妻を亡くした大店の主である事や再婚した事を知り、気持ちの整理がつかなくなるが、結局自分の幸せは今の家庭にあると思い直し、急いで家に帰る。題材としてはかなり奥の深い内容で、個人的には中篇作品してほしかったが、さらりと書き上げている。体力の限界であった?。本作品の中でも洲崎の関する造詣の深さに驚くが、エッセーでは更に洲崎の歴史をはじめその知識に驚く。シリーズ連載作品としての最後の作品。
(別冊文藝春秋214号・・1996年1月)
秘太刀馬の骨 秘太刀馬の骨 浅沼半十郎 杉江   オール讀物90年12月号から92年10月号迄断続連載された作品。望月四郎右衛門隆英を殺害した斬り口が世間で言われている『馬の骨』と言う秘剣だと言う。その秘剣は矢野道場の門弟のうち一人のみがそれを伝授されているとの事。該当者は『矢野藤蔵』『内藤半左衛門』『沖山茂兵衛』『北爪平九郎』『長坂権平』『飯塚孫之丞』そして道場の家僕『兼子庄六』の7名。それが誰であるかを推理して行く推理小説のごとき展開。それぞれの門弟が多少疑心暗鬼になって行く面白さと意外性、そして立合わざるを得なくなる理由の面白さ、力作である。最後の杉江が病を回復したシーンは何か深い意味があるのか???。まさかまさか・・・。単行本出版に際して、それなりに加筆・修正された珍しい作品。全体が庄内弁で書かれた作品である。(春秋山伏記、本作品の二作品のみである・・ただし一部に関しては例外もある)
秘太刀馬の骨の謎
をどうぞ。
風雪の檻 老賊 おちか 捨蔵 4月号 小説現代80年4月号から12月号迄断続連載。獄医立花登の春秋の檻に次ぐ第二弾。老賊等5編からなる。おちえの他におしんが脇役で登場。友人の新谷の放蕩を横糸に話が進む。その第一話。幾ばくも命の無い老盗人、実はとんでもない悪人で、登が担がれる話。悪事を見られたおちかを娘と偽りその居場所を探させ、相棒に殺させようと言う策略に危うく懸かってしまうが、何とか間に合う。登の甘いところを表現しているお話。
風雪の檻 幻の女 おこま 巳之吉 8月号 元来は善良な男が、現代風に言えば正当防衛のような殺人を犯す。島送りの前に幼馴染のおこまに逢いたくて登に探して連絡してくれるよう頼む。探し当てた女は女牢に入っていて、かなりの悪をする人間に成り下がっていたと言う話。最後の女の表情がなんとも言えない。
風雪の檻 押し込み おしづ おしん  9月号 落ち葉降るの続編。出所したおしんが務める居酒屋で、おしづと言う女の為、義賊気取りの三人が押し込みを計画するが、本職の強盗またたびの七にうまく利用されてしまう羽目になる。義賊気取りになったいきさつ等が克明に書かれているが金平が何故牢に入ってきたかやや不明。おしんが脇役としてしばしば登場するようになる。
風雪の檻 化粧する女 おつぎ 房五郎 10月号 五両の金を脅して借りただけの罪人に、ルール違反に等しい厳しい拷問をする同心、それに耐える房五郎。両方に疑問を持った登。色々調べて行くうちに、手塚家に押し込みには入った二人組みの強盗の疑いが有ることが判明。女房のおつぎもしたたかな女。
風雪の檻 処刑の日 おゆき 新七 12月号 妾殺しで捕まった大津屋の主。牢にいる主をよそに密会をする女房と手代。不審に思った登の調べが始まる。手代の新七が七十両の金を使い込み、妾を殺し主人を殺人犯に仕立て上げたことが判明。処刑の延期を願い出ぎりぎりのところで間に合うという話。最後に放蕩をして用心棒に成り下がった新谷との絡みがある。本編の横糸の解決と言うところか。そして第三弾『愛憎の檻』に繋がる。
ふるさとへ廻る六部は ふるさとへ廻る六部は       単行本の出版が後になった作品。 藤沢周平のエッセイ集。作者の側面を知る絶好の書。およそ90程の話からなっているが、特に『私の「深川絵図」』は読み応え十分。江戸市井物の舞台に深川が多いのもこれほどの智識があればこそと納得。深川と海坂は同じ水、道でも全く異なる事が判明する。この年発表作品無し、体調が悪い。後書がなかなかよい。
本所しぐれ町物語 鼬の道 新蔵 半次 以下号数不明 『波』に85年1月号から86年12月号に連載された作品。本所しぐれ町を舞台に、町人の話を綴った形式の小説。12の短編からなる。それぞれを独立した作品とすべきか判断が難しいが、一話形式となっているのでそれぞれの作品として整理した。最後の対談が面白い。先ず第一話。自身番の書き役や大家の清兵衛を紹介しながら話が始まる。大阪に行っていた弟が帰ってくるが、これが期待に反してどうしようもない厄介もの。結局最後大阪に帰って行く。兄弟と言う関係の難しさ切なさを描く。本作品の雑感
本所しぐれ町物語 栄之助 おもん   女道楽が過ぎて嫁に帰られてしまった男が、反省もしないでこれ幸いに人のお妾さんに手を出す話。猫が小道具で登場。この二人の話は、以降も時々登場。対談によれば、筆が止まった時の窮余の策とか。
本所しぐれ町物語 朧夜 佐兵衛 おとき   家督を息子夫婦に譲り一人暮らしをしている初老の男。ふと知り合ったおときと言う女性。これを気にする息子夫婦。結局だまされて二十両程を失うが、本人は恍惚としている。
本所しぐれ町物語 ふたたび猫 栄之助 おもん   猫の続き話。人の妾のおもんに益々はまって行く栄之助。妾の旦那は香具師らしい。家出している嫁のおりつの事を周りも気にしてくれて帰ってくる。妾との別れ話になるが、猫がなついているところが面白い。
本所しぐれ町物語 日盛り 長太 おいと   少年の長太。家出をした母親に両国橋でばったり会う。母親は病気になっており、結局父が引き取るが再び家を出て行く。幼なじみのおいとも別の町に・・。少年期の微妙な心の動きを描く。
本所しぐれ町物語 政右衛門 おふさ   女房のおたかと一緒になったのは間違いではなかったかと、四十を過ぎてから思いはじめ、今は寡となっている昔の恋人に会うが、結局おたかとこのまま生きて行くしかない事を思い知る。油を買う場面で熊平とおきちが登場し、次の『約束』に繋がる。
本所しぐれ町物語 約束 おきち 熊平   母親に死なれた十歳のおきち。父親は飲んだくれで一両二分の借金まで作り卒中で亡くなる。その間薬代も払えず金まで借りてしまう。仕方なく最後は女衒に身を売る。そしてその他にもあった借金を返済する。佳作。
本所しぐれ町物語 春の雲 千吉 おつぎ   十五歳の桶職人の千吉。先輩に連れられていった一膳飯屋のおつぎを好きになる。が、臨時雇いで現れた佐之助を連れていったのが間違いで、一時彼女を取られてしまう。店をやめてしまうが佐之助と喧嘩をするところをみて再び店に戻る。途中親方夫婦の痴話喧嘩の話がはいる。この会話も面白い。
本所しぐれ町物語 みたび猫 栄之助 おもん   三度栄之助が登場。その他今までの登場人物が再度現れる。戻ってきた女房のおりつとはどうもうまく行かなくて、再びおもんの家を訪ねるが、泥棒の一味と間違えられる話。
本所しぐれ町物語 乳房 おさよ 信助   働いて家に帰ったら、亭主は近所の後家と浮気の真っ最中。飛び出してやや荒れるが自身番でやり取りがあり、亭主が謝るがおさよは帰らない。おろくの話を聞いたり、色々あって最後は家に戻る。江戸町人の雰囲気を表す作品。
本所しぐれ町物語 おしまいの猫 栄之助 おもん   女房のおりつとは縒りが戻り腹に子供が出来るが、懲りない男栄之介。おもんの家を再度訪ねるが遂に旦那と鉢合わせ。高い買い物をしばらくする羽目になる。まさにおしまい。
本所しぐれ町物語 秋色しぐれ町 清兵衛 万平   今まで登場した人物が順次登場。その後の生き様を紹介しながら、山口屋に忍び込む泥棒の話。娘が身ごもって相手と話をつけている親子話等があり、秋色深い本所しぐれ町を描く。本作品の描き方をみると、本所しぐれ町物語全体で一つの作品とした方がよいかもしれない。それにしても、何処にでもある日常的な事柄を、さわやかな文章で書き上げる見事さは、すばらしい。まさに司馬遼太郎作品との違いが分かる典型的な作品。どちらが良いという事ではなく。