単行本書籍名 | 作 品 名 | 主人公 | 脇役 | 初出詳細 | 内 容 |
愛憎の檻 | 秋風の女 | おきぬ | 佐七 |
1月号 |
小説現代81年1月号から82年1月号迄断続連載。獄医立花登の春秋の檻、風雪の檻に次ぐ第三弾。主人公の環境もかなり良い方に変化し、人々の彼を見る目も大きく変わり始める。従妹のおちえも変わって行く。秋風の女等6編からなる。その第一話。たかが置き引きをして捕まったとは思えないほどふてぶてしい女。牢屋の下働きの佐七をうまくだまし、娑婆と連絡を取り、ゆすりのネタを相方に届けさせ、その上佐七を殺害しようとする。 |
愛憎の檻 | 白い骨 | 辰平 | 2月号 | 今まで、でたらめな人生を送ってきた辰平。実は別れた女房と娘がいると言う。登の世話で出所後一緒に生活できるようになったが、十日後殺される。牢を出る時、永らく迷惑をかけた女房にすまないと思い、危険を承知で仕事を引き受けた為と判る。 | |
愛憎の檻 | みな殺し | 芳平 | むささびの七 | 5月号 | 芳平という男が牢内で殺される。一応病死にするが、殺される理由が分からない。一方無関係と思われる人が七人も死ぬ。盗人の一人が仲間の皆殺しを企んだ事件。犯人は芳平を殺す為、牢に自らはいってきた。 |
愛憎の檻 | 片割れ | 蓑吉 | 7月号 | 登は自宅で人相の悪い男の手当てをする。それとは別に牢に入ってきた蓑吉は、盗人の片割れで相手の名前を言わないと言う。時刻等からその相手は先夜の手当てした男と思われる。最後は思い違いとわかるが・・・。従妹のおちえと、だんだん仲良くなって行く。 | |
愛憎の檻 | 奈落のおあき | おあき | 伊勢蔵 | 9月号 | 囚人の嘉吉は、娘の病を助けてもらったお礼に、登に黒雲の銀次と言う盗人の話を漏らした為、牢内で殺される。その後で出所した中に犯人がいると睨んだ登が、それを糸口にして大捕物をすると言う話。おちえの幼馴染の、おあきの情夫が黒雲の銀次の手下で登場。おあきが話の主役として登場。 |
愛憎の檻 | 影法師 | おちせ | 杉蔵 | 82年1月号 | 妾をしている母親が死亡。その二月後、娘のおちせが母親の旦那を刺し入牢する。おちせは、母が旦那に殺されたと思っている。出牢後おちせの姿が消えてしまい、思わぬ人のところで働いている。実はその男こそ殺人者であったと言う話。この話はかなり面白い。これで第三弾は終わる。そして最終第四弾『人間の檻』に繋がる。 |
暁のひかり | 暁のひかり | 市蔵 | おこと | 小説現代 75年10月号 |
初期の藤沢作品は一般に『暗い』といわれているがその代表を集めたような単行本。その表題作。壷振りやくざの市蔵が、賭場帰りにふと知り合った『おこと』によって堅気になろうと一瞬思うものの、彼女の死によって結局、いかさまさいころを使わされ破滅する。 |
暁のひかり | 穴熊 | 浅次郎 | 佐江 | 小説現代 75年3月号 |
夜逃げした経師屋の娘お弓を探す博打の浅次郎。お弓によく似た体を売る、武家の女『佐江』の生活苦の事情をしった浅次郎は、その亭主と賭場荒らしを行い大金を手にする。が、佐江は本質的に男を求める女そのものであった。 |
暁のひかり | 馬五郎焼身 | 馬五郎 | おつぎ | 問題小説 74年4月号 |
あばれもの、厄介ものの馬五郎、おつぎとの間に生まれたお加代が死んでから二人は別れ、荒れた生活をしている。お角に二十両の金を奪われたりするが、おつぎとは最後まで縒りを戻さず、通りかかった火事で人の子を助け、自らは焼身してはてる。 |
暁のひかり | おふく | 造酒蔵 | おふく | 小説新潮 74年8月号 |
父親の骨折から生活のため売られたおふく。かざり職人となった幼馴染の造酒蔵が金をかりて店に上がるが売れっ子のおふくには逢えない。その後博打場の用心棒に身をおとし、おなみと言う女の面倒をみたりするが、罠にはまって江戸を出、舞い戻ってふとした事から幸せそうなおふくを見る。 |
暁のひかり | しぶとい連中 | 熊蔵 | みさ | 小説宝石 75年7月号 |
身投げをする親子を助けたばっかりにずっと付いてこられ、その挙げ句に、家にまで住みつかれた熊蔵。仕方なく危ない仕事までするが、これも運命かなと思う熊蔵。孤独な男の心境を描く。 |
暁のひかり | 冬の潮 | 市兵衛 | おぬい | 小説新潮 75年6月号 |
市兵衛は死んだ長男の嫁おぬいを実家に帰す。しかし身を崩し落ちて行くおぬいが気になり、引き取ろうとするが、男に脅され、挙げ句の果てに逆に脅しを頼んだ結果、殺人の共犯になってしまう。 |
暗殺の年輪 | 黒い縄 | 宗次郎 | おしの | 別冊文藝春秋 72年121号 |
藤沢周平作品初期5つの短編(中篇?)を単行本とした価値ある一冊。藤沢周平作品の原型となる5つのパターンが編纂され、藤沢周平の原点を理解するのに必読の本である。 妾殺しのぬれぎぬを着せられた宗次郎と、豪商の出戻りの幼馴染おしの。実は真犯人は探索をしている岡引の地兵衛本人。執拗に迫る地兵衛、それと知らず真犯人を探す宗次郎、想いを強くするおしの。三人のそれぞれの思いが錯綜する。宗次郎もやっと気がついて・・。直木賞候補作品。秀作。 |
暗殺の年輪 | 暗殺の年輪 | 葛西馨之助 | お葉 | オール読物 73年3月号 |
横死した父と、その後の母に対する世間の風聞。そして母の死。藩の二つの流れに利用されながらも、何かを求めた主人公。海坂藩・父の横死・二つの派閥の葛藤等、藤沢文学の原点。藤沢周平の全てはここから出発したとみてもよいと考える。全編が美しい文章で綴られる。特に母親を責めるシーンでの母親の『波留』の仕草を現す一言は素晴らしい。最後馨之助は自宅には帰らず『お葉』の居る店に向かう・・・武士を捨てるつもりか?多少気になるところではある。『お葉』は以降に現われる藤沢作品の原点のような気がしている。最初は『手』という題名だったとか。最終章から納得は出来るが、やはり改題して良かったのではないか。短編小説というより、中篇小説的な重みを感ずる作品。直木賞受賞作品。 |
暗殺の年輪 | ただ一撃 | 刈谷範兵衛 | 三緒 | オール読物 73年6月号 |
仕官を望む豪腕猪十郎を倒すよう指示を受けた主人公。既に六十歳を超えた隠居である。かつての武芸者に立ち返る為、男として望んだただ一撃?。それに答えた息子の嫁の生き様、そして女の悲しさ。最後ただ一撃で相手を倒す。秀作。ただ一撃の本当の意味は?藤沢周平氏の故郷の青龍寺川、高坂、金峰山等がそのまま出てくる作品。 |
暗殺の年輪 | 溟い海 | 葛飾北斎 | お豊 | オール読物 71年6月号 |
1971年、藤沢周平氏の文壇デビュー作。70歳を過ぎた北斎の苦悩・老いに対する畏れを描く作品。お金の蓄えも乏しく、子供に苦労させられる様子を通して、北斎の冷酷、因業な性格を表現しつつ、新たに出現した広重に対する畏れが見事に描かれる。大向こうをうならせるような派手な性格の自分に対し、広重のまさに自然流の如き性格の対比。青二才何するものぞ!と、思いもかけぬ手段に出るが、しかし若き広重に対する憎しみも、人それぞれに悩みがあることを理解し、北斎自身自らを納得させ次第に変化してゆく。これから凋落してゆくであろう人生を暗示するような最終章が題名となっている。歴史小説的な題材を使ってはいるが、フィクションとしての時代小説として理解している。 オール讀物新人賞受賞作品。65年オール讀物に投稿の『北斎戯曲』と関連有りか?。尚、習作と思われる作品『浮世絵師』が未刊行作品として2008年3月発見された。 著者は浮世絵・浮世絵師に関してかなり関心があったことはエッセー等を読むと確かである。浮世絵関連作品としては74年発表の広重を主題にした『旅の誘い』が、そして75年歌麿を主人公にした『喜多川歌麿女絵草子』がある。更に晩年、浮世絵を題材にした『日暮れ竹河岸』が発表された。角度は異なるが、『彫師伊之助シリーズ』も関連作品と思える。安藤広重に関する経緯 |
暗殺の年輪 | 囮 | 甲吉 | おふみ | オール読物 71年11月号 |
賭場で人殺しをして江戸から逃亡した網蔵が再び江戸に戻ってきた。犯人の探索を底流におき、彫物師で下っ引きでもある主人公と、犯人の囲い女との心の葛藤を描く作品。囮として見張りを続けるうちに変化する自分の心。読みきれない女心。この作品も江戸の町を繊細に描き、文章表現が素晴らしい。彫物工房の雰囲気など以降の彫物師伊之助に繋がる話のような気がするが・・?。直木賞候補作品。評論家駒田信二氏は『溟い海』を凌ぐ秀作と書いている。 兎に角この本の作品は全て繊細な文学作品である。 |
一茶 | 一茶 | 小林一茶 | 別冊文藝春秋77年139号から142号迄連載された作品。稀代の俳諧師一茶の生涯を描いた力作。欲深くそして貧相な人間像を表現し、一茶の思いもよらぬ意外な一面を知る。金に拘り人間としては些か首をかしげる人生。長編小説。一茶に関する思いがエッセーに多く書かれている。一茶は好きではなかったが、ある時一茶の句ではなく生活に触れた事柄を知った後、どことなく気になる人物として残った、とある。(小説一茶の背景)多少読みにくいのは私だけか。満を持して一気に書き上げたイメージの強い作品。藤沢周平の俳句に関してはご存知の通り。 一茶の句から受けるほのぼのとした感じと、彼の人生の凄惨さとの乖離が存分に理解できる作品。 |
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海鳴り | 海鳴り | 新兵衛 | おこう | 信濃毎日新聞夕刊他8紙に82年7月25日から83年7月18日迄連載された作品。藤沢文学の最高峰の一つ。文庫で上下巻。骨身を削って働いてきた果てに迎えた四十才、無気力な長男、冷めた妻との家庭の生活。ふとした事から知り合った薄幸の人妻『おこう』との恋。ゆすられて百両の大金を取られても成就したい二人の切ない想い。最後は殺人未遂事件まで起こしてしまう。藤沢作品は、社会的道徳感から見て許されない時、必ずそれなりの結果が待っているのが常であるが、本作品は最後は珍しく、二人は幸せに向かって旅立つ。何故そんな結末にしたか、ご本人の解説も良い。市井物では最も好きな作品。 | |
漆の実のみのる国 | 漆の実のみのる国 | 上杉鷹山 | 文藝春秋93年1月号より断続連載、96年3月号で中断。藤沢文学最後の長編作品で絶筆となった作品。物語の進み具合としては未完の状態であろう。最後の章は1996年7月に編集者に渡した、と年譜にあるから、力を振り絞って書かれたであろう事が推測される。ここまで頑張られた藤沢周平氏の人柄がしのばれる。神はもう少しだけ作者に時を与えられなかったのか。同時に個人的には未完の作品であってもよかったのではないかと・・。最終回分は97年5月に単行本として刊行。 石高が減っていっても人を減らさなかった米沢藩の貧乏な藩経営。その状態から脱却しようとした上杉鷹山とその家来達の血の滲むような努力と屈折。登場人物は多種多様。中編『幻にあらず』と中盤まで内容的には重複しているが、視点が異なる。連載中のエッセーに「幻にあらず」を書いた時より、資料が豊富になりどうしても書きたかったとある。 |
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冤罪 | 潮田伝五郎置文 | 潮田伝五郎 | 七重 | 小説現代 74年10月号 |
果し合いの末、勝者の切腹のシーンから始まる回顧形式の小説。潮田伝五郎は妻『希世』が有りながら中老に嫁いだ七重への片想いが強い。その想いが高じて、噂にすぎなかった七重の浮気相手に果し合いを申し込み、お互いが果てる。しかし七重の心にはその浮気相手勝弥が生きていた。今では七重には伝五郎に恨みしかない。 |
冤罪 | 冤罪 | 堀源次郎 | 明乃 | 小説現代 75年6月号 |
部屋住で婿養子を望む主人公が、散歩で出会った貧しくも清らかな親娘。密かな想いを寄せるが、親が公金横領の罪で切腹する不自然さに疑問を抱き、結果として冤罪であることが判り、最後は武士をすてて、二人が結ばれる。藤沢文学の良さが、素直に理解できる作品。終章近く源次郎が明乃に出会うシーンは、ちょっと違和感があるがこれも藤沢作品の味か?。 |
冤罪 | 証拠人 | 佐分利七内 | とも | 小説新潮 74年6月号 |
浪人、佐分利七内の就職活動の話。書状の信憑性の確認を求められ、証拠人を探す旅に出たが、既に死亡しており気力も失せる、が意外な所に幸せがあったと言う話。七内という名前は、湯田川温泉の旅館名から?まさか。 |
冤罪 | 唆す | 神谷武太夫 | 竜乃 | オール読物 74年8月号 |
かつて百姓一揆を唆した男の本性か、再び江戸で品川の騒動を利用して暴動を唆す御粥騒ぎ。浪人となった武太夫と気位の高い妻竜乃との心の食い違いと通じ合いの妙、商家の女主の絡み。海坂藩と江戸の両方が舞台の作品。昭和48年の石油ショックをヒントにして書かれたと、あとがきにある。歴史上の事実を背景にしているが、完全なフィクションであろう。 |
冤罪 | 密夫の顔 | 浅見七郎太 | 房乃 | 問題小説 74年11月号 |
夫の江戸出府中に過ちを犯した妻。相手の名前を言わぬ為自ら探索を始める。気持ちが荒んで時に友人や別の友人の妻を窮地に追い込むこととなるが、相手は薬売りと判明。妻の病に付け込んだ犯罪で、結局斬らずに見過ごす。 |
冤罪 | 夜の城 | 守谷蔵太 | 三郷 | 問題小説 75年4月号 |
記憶喪失になった公儀隠密が五年後に記憶を取り戻すまでを描く。藩としては彼の目的を知る為、藩の餌指人にして監視している。妻三郷も其の役目であるが次第に心変わりし、二人で脱出する。人間の心の描写がすばらしい。 |
冤罪 | 臍曲がり新左 | 治部新左衛門 | 葭江 | オール読物 75年4月号 |
臍曲がりの主人公が果し合いの間に入り、犬飼平四郎を助けるシーンから始まり、不正を働く藩の中老を成敗、娘葭江と平四郎の結婚を認めるまでを描く。巧みな文章で言葉の面白さが楽しめるある種のユーモア作品。同じく新左衛門の名前の作品として横山新左衛門が登場する『鷦鷯(みそさざい)』がある。性格的には同じような人物である。 |
冤罪 | 一顆の瓜 | 島田半九郎 | 美佐 | 別冊小説新潮 75年夏季号 |
同僚、甚内から彼の妻に対する愚痴を聞いた帰宅途中に、江戸からの密書を持った女性をを助け、これがきっかけで藩の改革に協力、加増の期待をするが・・もしやあの時食らった瓜か・・まさか。結果はその瓜一つで終わると言う話。専門家の評価の高い作品。 |
冤罪 | 十四人目の男 | 神保小一郎 | 佐知 | 別冊小説新潮 75年冬季号 |
出戻りの叔母佐知に再婚を勧めたが、結果として藩の粛正で死に追いやってしまう。その原因を調べるうち、家康公以来の感状にまつわる14人の集まりを見つける。藩は最終的に官軍を敵に回す側に方針を決定する。奥の深い話。周平氏の関ヶ原前後の豊富な知識の片鱗をみる。『佐知』の名前はこの作品が最初である。『サチ』も別にある。 |