江戸切絵図を片手に楽しみながら読む藤沢周平作品。中でも『橋ものがたり』は特に楽しい作品である。『彫師伊之助シリーズ』のような作品は、広い江戸の町を縦横無尽に走り回りそれはそれなりに面白いが、江戸切絵図を参照しながらでは中々読みにくい。
一方『橋ものがたり』はその逆である。10の短編からなる本作品は、一つ一つの話が原則として一枚の切絵からなっている。(例外もあるが)同時に他の作品と異なり『実在の橋』が中心であるため、橋を取り巻く地理的な環境が重要である。したがって是非、江戸切絵図を見ながら楽しみたい作品でもある。
幸いにも市販の書物で安価な江戸切絵図本がある。最近発売された『江戸時代小説はやわかり』(人文社・・時代小説シリーズ 2006年1月初版)と題する切絵図本は手ごろな価格で求めやすい。同時に、藤沢周平作品ファンとしては手元においておきたい情報でもある。尚、同社発行の同じ時代小説シリーズ『江戸切絵図に広がる 藤沢周平の世界』も同じ切絵図であり、これはこれでファン必携の書物でしょう。(私はこの会社とは全く関係がありません・・念のため)
以下に各作品の舞台となっている『橋』と切絵図の関係を簡単に纏めてみました。ここで言う『切絵図本のページ』とは作品の主たる舞台となっている場所に該当する『江戸時代小説はやわかり』の絵図のNOを意味しています。参考になれは幸いです。
作 品 名 | 橋の名前 | 主たる舞台の 切絵図本のページ |
主な場所の絵図上の位置 |
約束 | 萬年橋 | 19−1 本所深川絵図 |
小名木川、萬年橋 19−1(中上) お蝶の家=冬木町 19−1(左中) 幸助の家=小泉町 18−1(左上) |
小ぬか雨 | 思案橋 | 5 日本橋北内神田 |
思案橋、荒布橋、親父橋 5(中下) おすみの家=堀江町四丁目? 5(中下) |
思い違い | 両国橋 | 19−1 本所深川絵図 |
両国橋 18−1(左上) 源作の仕事場八名川町 19(右上) 源作の家=福井町 16(左中) おゆうが住んでいるという町=松井町 19(右上) 八郎兵衛屋敷=おゆうが働く岡場所 19(右上)亀井屋敷? |
赤い夕日 | 永代橋 | 19−1 本所深川絵図 |
永代橋 19−1(左上) おもんの昔の家=永堀町 19−1(左上) おもんの今の家若狭屋=油町 6(右上) 南油町? |
小さな橋で | 名も無き 小さな橋 |
12−2 礫川牛込絵図 |
小さな橋=音羽町九丁目に続く 12−2(右下) 母、姉が働く町=水道町、松枝町 12−2(中下) 広次の遊び場=崇伝寺 12−2(右下) |
氷雨降る | 大川橋 | 16 東都浅草絵図 |
大川橋 18−1(右中)(吾妻橋) 吉兵衛の店=北本所表町 18−1(右中) おくらの店=三間町 16(右下) おひさの為の家=海禅寺裏 17(左中) |
殺すな | 永代橋 | 19−1 本所深川絵図 |
永代橋 19−1(左上) 吉蔵の家=相川町 19−1(左上) お峯の家船宿玉木屋=堀江町 5(中下) 二人が転々とした町=荒井町、相生町 18−1 |
まぼろしの橋 | 笄橋 鳥越橋 |
19−1 本所深川絵図 |
笄橋 21(中下) 鳥越橋 16(左中) おこうの住む美濃屋=深川富川町 19−1(右中) 弥之助の住む吉右エ衛門店=小泉町 18−1(左上) 五間掘、伊予橋 19−1(左中) |
吹く風は秋 | 猿江橋 | 19−1 本所深川絵図 |
弥平が帰ってきた橋、出てゆく橋=猿江橋 19−1(中下) 女郎おさよの店=常盤町 19−1(中上) 徳次の家=横網町 18−1(左上) 慶吉の住む長屋=村松町 5(右中) |
川霧 | 永代橋 | 19−1 本所深川絵図 |
永代橋 19−1(左上) 新蔵の仕事場=今川町 19−1(左上) おさとのいる飲み屋花菱=仲町、蛤町 19−1(左上) おさとを探した町=中ノ郷 19−2(右下) |
大半が大川の東、本所・深川を舞台にしています。『竪川』を挟んで南は深川、北が本所ですが、絵図は竪川を境にして常に南北に別れていますので、残念ながらややみにくいのが実態です。したがって絵図としては18−1、19−1が中心となっています。
ご意見その他は たーさん
迄