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藤沢周平作品内容6

ま 〜 ゆ
単行本書籍名 作 品 名 主人公 脇役  初出詳細 内         容
又蔵の火 又蔵の火 土屋又蔵    別冊文藝春秋
73年125号
この本は全体に暗い感じの作品が多い。その表題作。惨殺された兄の仇を討つための修行と、相打ちとなって死ぬまでを描く中編小説の力作。特に決闘場面の描写はものすごい迫力である。まさに壮絶とはこういうことであろうか。鶴岡市の総穏寺の山門を入って左側に像がある。実話である。本作品は『決闘の辻』に編纂したほうがいいような気がする。
又蔵の火 帰郷 宇之吉 おくみ オール読物
72年12月号
以下の作品は全てフィクションである。年老いて故郷へ帰ってきた渡世人宇之吉、それを迎える実の娘のやりきれない気持ち。娘のために一働きしても居場所がなく、再び旅に出なければならないやくざな父親宇之吉の悲しさそして男の立場。短編ながら力作である。
又蔵の火 賽子無宿 喜之助 お勢 オール読物
72年6月号
指を詰め江戸から去って二年、再び舞い戻った喜之助。風邪をこじらせているところを助けてくれたお勢のため、再び博打の世界に足を入れる。折角それなりの金を拵えたのにお勢は何処へ・・。一旦落ちてしまった男は、こんな形でしか生きてゆけないのかもしれない。これも暗い。
又蔵の火 割れた月 鶴吉 お菊 問題小説
73年10月号
島流しから帰ってきた鶴吉。もしやと思っていたお紺は現れずふとしたいきさつから、お菊一家の面倒をみる羽目になるが、堅気の商売の金繰りが苦しく、仕方なくイカサマサイコロを使い殺されてしまう。この作品も暗い。
又蔵の火 恐喝 竹二郎 おその 別冊小説現代
73年早春号
備前屋の娘『おその』と一寸したいきさつで世話になったヤクザものの竹二郎。ゆすりたかりの生活をしているが、『おその』だけはどうしても助けたくなり、体を張って助ける。この本(又蔵の火)は全体として暗い感じを与えるが中編小説の力作揃いである。後書きがある。
密謀 密謀 直江兼続      毎日新聞夕刊80年9月16日から81年10月3日迄連載。本能寺の変以降、意外な方向に流れてゆく歴史の中で、越後の雄、上杉景勝の重臣「直江兼続」の長期的計算に基づく活躍を描く長編歴史小説、文庫で上下二冊。代表的米沢藩作品(幻にあらず、漆の実のみのる国)の時代(1760年代)より180年程以前の歴史小説である。
上杉家は小牧、長久手の戦い(1584年(天正12年))から、朝鮮役(1598年(慶長3年))をへて越後から会津に移封、佐渡・庄内をも合わせ120万石領地を有する大大名となるが・・。
関が原の戦い(1601年(慶長6年))で傍観した結果、米沢藩30万石の大名に落ちぶれてゆく様が描かれる。
謙信以来の上杉家の誇り、秀吉政権に於ける上杉家の立場、兼続の緻密な計画、関ヶ原に対する景勝の判断と無念さ、が巧みに描かれる。石田三成との密約が何故果たせなかったか。果たして密約の内容は?更にその密約は双方が芯から同じ思いであったのか。
歴史の傍流とも思える本作品に対する、著者の綿密な歴史的事実の詳細な記述に驚くと共に、草(忍者)をも登場させ、歴史・時代小説と言う両面の面白さの作品に仕立て上げて、充分に満足させてくれる力作である。
1663年(寛文4年)15万石に半減される遠因にまでなった景勝の判断を著者自身どう思われたか。米沢藩に対する作者の思い入れがよく分かる小説。エッセー集にも多く登場するが、関ケ原の戦の前後にとった上杉家の方針に疑問を抱き関心を持ったとある。エッセー関係情報

忍者失格残照十五里ヶ原、密謀、幻にあらずと連続して読むと楽しい。最後は漆の実のみのる国で締める。

三屋清左衛門残日録 醜女 おうめ 佐伯熊太 172特別号 85年別冊文藝春秋172号(夏季号)から89年186号(新春号)に連載された作品。十五話からなる。隠居した清左衛門、心の寂しさと気楽さが交錯する中で、藩の派閥争いを縦糸に展開される藤沢文学の後半の傑作。かつての僚友で町奉行の佐伯熊太、嫁の里江、飲み屋のおかみみさが脇役で登場。この作品は海坂藩作品のようでありながら、海坂や五間川が全く出てこない。何故か判らない疑問である。途中から登場する『涌井』で藤沢さんの故郷のおいしい食べ物をそれとなく紹介しているようにも思える。その第一話。隠居に到るいきさつや殿の好意を思い出しながら話が進む。菓子屋の娘のおうめが十年前殿に一夜の伽を言いつけられ、その後すぐに城を去った事があったが、十年後そのおうめが身ごもったと言う。先代の殿の事を考えれば、藩としては生ませたくないと言う。たった一度の事で人生を暗く生きなければならない運命。清左衛門がこれを救う。
三屋清左衛門残日録 高札場 安富源太夫 友世 173特別号 安富源太夫が大手前の高札場で女の名前を叫んだ後、切腹したと言う。女の名前は友世。かつて二人は言い交わした中であったが、源太夫に婿の話があり話が流れたいきさつがあった。友世は二年後にふとした事で死亡。自分の境遇を含め、次第に心が沈んでいった結果自害したと思われるが、真相は全く異なり、彼の思い過ごしとの事。
三屋清左衛門残日録 零落 金井奥之助    174新春特別号
(86年)
かつて僚友であったが今は二十五石に成り下がり、最悪の人生を送った男の暗い話。久しぶりに会った事から、出世した清左衛門と自分を比べ、筋違いではあるが憎い思いを抱いてしまい魔が差す。これで二人の関係は完全に終わる。現代のサラリーマンにも通ずる話。
三屋清左衛門残日録 白い顔 多美 波津 175特別号 法事の時、寺であった娘の顔に昔の懐かしい思い出を回顧し、今は不幸な人生を歩んでいる娘の縁を取り持つ話。これぞ藤沢作品の神髄。久しぶりに剣を使い日頃の鍛練に満足する。母が色白でも娘もそうだとは限らない、最後がいい。嫁を貰った平松与五郎は以降、清左衛門の護衛役として時々登場。
三屋清左衛門残日録 梅雨ぐもり 奈津 杉村要助 176特別号 嫁にやった娘の奈津がやつれている。夫の杉村に女がいるのだと言う。仕方なく親馬鹿となって調べるが、二派に分かれた藩の争いの為の仕事と判る。最後奈津は手のひらを返したように元気になる。この辺から藩のテーマが結構出てくる。ご本人も少し話しの方向を変えた、とエッセーで解説している。
三屋清左衛門残日録 川の音 おみよ 黒田欣之助 177特別号 釣りの帰り、川にはまった自作農の母子を助ける。その後藩の執政から、清左衛門は近づくなと言われる。藩を二分する朝田派の会合で下働きのおみよが、参加した人物の顔を見たため、監視されていた事が判る。元用人の立場と平松与五郎の剣の助けもあって?無事解決する。
三屋清左衛門残日録 平八の汗 大塚平八郎 みさ 178新春特別号
(87年)
小料理屋『涌井』おかみの『みさ』が登場。かつての僚友で同じく隠居の身の平八郎が、藩の中心の人を紹介してくれと言う。間宮中老を紹介するが、この目的が息子の失態を軽くしてほしいと言う嘆願であったと言う話。平八郎からお礼かどうか判らないが鱈が届く。派閥争いが進行し次第に巻き込まれそうになってくる。以降『涌井』には旨い食べ物が登場する。
三屋清左衛門残日録 梅咲くころ 松江 安西佐太夫 179特別号 昔江戸詰めの頃、清左衛門が生きる力を与えた奥女中の松江が、久しぶりに国へ帰り尋ねてくる。縁談があると言う。佐伯に聞くと相手は金目当てと分かる。この縁談はなくなるが、当の相手に清左衛門が襲われる。その時助成してくれた安西の嫁に松江が一番いいのだと思うが・・。
三屋清左衛門残日録 ならず者 半田守右衛門    180特別号 かつて収賄の罪で減石された半田は、実は冤罪ではなかったかの疑問が出る。藩の派閥争いに絡み再調査を頼まれる。しかし彼は孫の病気治療の為、やはり収賄をしていた事が判る。しかしその実態は些か異なるが・・。
三屋清左衛門残日録 草いきれ 小沼惣兵衛    181特別号 最近の体調、嫁の里江の事や藩の派閥争いに触れ、『零落』に登場した金井の息子の姑息な話があり。そして久しぶりに道場に来て、子供たちの振る舞いを見て、若き日の時代を思い出す。かつての自分の行動を省みて、加勢した友人を思い出し尋ねる。しかしそれなりに出世して隠居した彼は、何と妾を囲っていた。藤沢作品ならではの話。
三屋清左衛門残日録 霧の夜 成瀬喜兵衛 おしま 182新春特別号
(88年)
藩の派閥争いに絡む話。成瀬喜兵衛がボケたと言う。ところが彼から清左衛門に連絡があり、会いたいと言う。しかもかなり警戒している様子。『涌井』を舞台に何故ボケたふりをしたかを語る。最後ずっと付け回していた相手方の三人を見事な峰打ちにしとめる。平松与五郎の助成は全く不要。
三屋清左衛門残日録 小木慶三郎 みさ 183特別号 若かりし頃殿に聞かれ、つい話してしまった友人の噂話。友人はその後左遷。ずっと気になってそれ以降時々苦い夢を見る。死ぬまでこの夢を見るのはかなわない。ふっと思い出し友人を訪ね、それが原因でない事が分かる。帰り吹雪に遭い『涌井』のおかみに助けられ、新しい夢を見る。今度の夢は心楽しい夢。同じ夢でも大きな相違があると言う話。この話の主題はどちらなのか?。この話は全体の中でも特に素晴らしい。
三屋清左衛門残日録 立会い人 中根弥三郎 納屋甚之丞 184特別号 道場主の中根に立会い人をしてくれと頼まれる。相手は三十年前に御前試合で戦った納屋。自分が何故立会い人なのか理解できないが引き受ける。木刀の試合であるが、その描写はさすが藤沢流の素晴らしさである。最後、なぜ彼に立ち会いを依頼したか理解する。同時に藩の毒殺事件や涌井のおかみ・みさの表情などが描かれる。
三屋清左衛門残日録 闇の談合 船越喜四郎    185特別号 藩の派閥争いそのものの話。朝田派の悪事が遂に鮮明になり、引導を渡す時機が到来。殿から清左衛門に助成の依頼があり最後のご奉公の仕事をする。そこそこの落し所で決着。平松与五郎の剣が無言のバックアップをする。朝田派に対抗する派閥を遠藤派(善いほうの派)としているが、お嬢さんの婚約の名前を登場させた?。これは冗談。(著作年代的には合うのですが・・)
三屋清左衛門残日録 早春の光 みさ 村井寅太 186新春特別号
(89年)
この小説全体を締めくくる話。主人公が誰と言うものではなく淡々と新しい時代が明けて行く。藩の体制も次第に整って行く。最後の生き証人を何とか守る等の話の他、『涌井のみさ』のこれまでのいきさつ、そして故郷へ帰るという切なくも喜ばしい話が静かに描かれる。城山三郎さんとの対談で、教訓めいた最終章が恥ずかしいと書かれている。藤沢さんらしい。
麦屋町昼下がり 麦屋町昼下がり 片桐敬助 満江 オール読物
87年6月号
助けて!の悲鳴を聞いてやむを得ず殺害したが、相手は人妻の義父。人妻の夫は藩中では有名な剣士で、人妻の話にうそがある事が分かり、結果的に殺人者になる。幾つかの話の後、剣の対決、最後のシーンがいい。まさに単行本タイトルにふさわしいすばらしい力作。
麦屋町昼下がり 三ノ丸広場下城どき 粒来重兵衛 茂登 オール読物
87年11月号
藩の争いのなかで護衛を命令されたかつての剣豪。今は出世もせず腕も鈍ってしまい護衛の仕事に失敗する。そこから一念発起し腕を磨き、腹黒い罠に対して遂に仕事をやり遂げる。力持ちの女茂登との最後もいい。
麦屋町昼下がり 山姥橋夜五ツ 柘植孫四郎 瑞江 オール読物
88年7月号
親友の自害に端を発した十年前の藩主殺害事件の真相を求めて苦悩する話。危険を承知で自ら調べ上げ、大目付の決断で真相を究明。その話に離縁した女房の噂が絡んでいた事実も判明する。藩の秘密を守る為であって誤解も解けて晴れて縁が戻る。いい話である。
麦屋町昼下がり 榎屋敷宵の春月 寺井田鶴 織之助 オール読物
89年1月号
江戸からの密使の手紙をめぐる藩の派閥争いと不正の話を縦糸に、執政候補となった夫をめぐる二人の女の戦いを横糸に話が進む。出世に差し障りがあると消極的な夫に対し、小太刀を使う田鶴が敢然と正義の戦をする。家臣の仇を討ち、正義が勝つまでを描く。夫の出世も何とかなりそうな・・。珍しい女剣士の話。屋敷の主小谷三樹之丞と寺井の妻である田鶴の、大人の微妙な会話は見事である。この単行本は中身の濃い力作揃いである。本書に関しての雑感を書いてます。
闇の穴 木綿触れ 結城友助 はなえ 問題小説
76年7月号
生後三(み)月の子供を失って塞いでいる妻。法事に際して新しい絹の着物を与え元気を取り戻すが・・。前日に木綿触れ(絹などの高価な着物の着用はご法度とする規則)がありやむなく持って行くだけにするが、ついつい着用したため悪徳役人に咎められ、脅され遂に自殺。最後は夫が仇を取り自らも割腹する。
闇の穴 小川の辺 戌井朔之助 田鶴 小説新潮
76年5月号
藩主に上書した結果、殿に疎まれてしまい脱藩した妹夫妻。その討手を申し渡された兄。武士の宿命とは言え実の妹の夫を斬らなければならない運命の皮肉。双方の思いが交錯する文章が読者の心にしみわたる。一方で家族同様に育てられた奉公人『新蔵』の田鶴への想いが、もう一つの縦糸となり、新蔵の秘めたる決意が、かすかな明日への道を開く。海坂藩が中心であるが、江戸も一部舞台となっている、まさに藤沢作品の味が凝縮されたすばらしい作品。秀作である。個人的には木綿触れと並んで、本書中の傑作だろう。
闇の穴 闇の穴 峰吉 おなみ 別冊文藝春秋
76年136号
夫・喜七と二人の間にできた子供『ちえ』と三人の裏店生活。そこへ五年前姿を消した前の夫・峰吉が現れる。用も無いのに頻繁に現れ夫婦の仲は荒んで行く。仕方なく月に一度の物を届ける用件を引き受けるが、都合で一日ずらしたため、峰吉は殺される。闇の世界を垣間見た人を描く。
闇の穴 閉ざされた口 おすま 清兵衛   小説宝石
76年5月号
偶然殺人現場を目撃したため、失語症にかかってしまった五歳の娘をかかえた長屋に住む寡婦の悲しい話。暗い話が淡々と進むが、終わりのほうに微かに灯かりが見えるようになる。余白を残す藤沢作品の味であろうか。
闇の穴 狂気 伊勢次 塚原主計  問題小説
76年9月号
橋の上で母子の諍いを見て子供を諭そうとしたが、心の底に持つ病が結果的に殺してしまう人間の狂気。根付けを手ががりに、犯人探しをする短編推理小説。初老の男の刹那的なしかし根の深いある種の狂気を描く。
闇の穴 荒れ野 明舜    小説宝石
76年9月号
師の妾に手を出した僧の明舜が、陸奥の国に下る途中の話。民話の世界に登場する鬼女にまつわる、恐いぞっとするようなよくある話の一例。荒涼とした風景の描写に身震いする。出典があるのか?。登場人物の最も少ない作品。
闇の穴 夜が軋む    小説推理
73年9月号
塚原宿の飯盛り女の『私』が一人称で語る形式。夫の仙十郎と山深いところで暮らしていた時の恐ろしい話を、今宵の客に話す。静かな雪の晩、家だけが軋み、人が死ぬ不思議な現象。これも恐い話である。
闇の傀儡師 闇の傀儡師 鶴見源次郎 津留   週刊文春78年8月17日号より79年8月16日迄連載された作品。田沼意次と八嶽党、江戸を揺るがす将軍継承問題をテーマにした長編上下二冊の大作。まさに伝奇小説の典型。妻が叔父と不倫、離縁をして浪人となった源次郎。時の老中から依頼され事件の渦に巻き込まれる。離縁した妻は自害、その妹津留の愛情に困惑しながらも、覚めた目で八嶽党と戦う。世継ぎの死亡によって使命は終わったかに見えたが・・。戦っていた八嶽党に同情心が芽生え。数箇所に出てくる決闘の場面描写は誠にすばらしい。津留との関係が次第に深くなってゆく様子が、楽しいラブロマンスとして描かれ、作品に潤いを与えている。しかし長編の割りに感動は少なし(たーさんの独断)。少年時代からの想いが深く入り込んだ作品であるようですが、作者はこのような作品は二度と書かないと言っている。実在の人物が多数現われる歴史創作作品。
闇の歯車 闇の歯車
(狐はたそがれに踊る)
伊兵衛      別冊小説現代76年新秋号掲載。『狐はたそがれに踊る』を改題。大変な盗人の伊兵衛が、素人四人を集めて六百五十両の金を奪う話。四人それぞれの人生を個別に描きながら話が進むが、結句寂しい人生が待っている。探索する岡引が中心ではなく、犯罪の全てが読者に明示され、テレビドラマ『刑事コロンボ』のような形で展開される。普通の推理小説とは趣を変えた面白い形式の長編小説。藤沢作品を映画化するとすれば、素人には最適と思われるが・・・。犯罪を犯すには、黄昏時が盲点で最適なのだそうです。夕方は特に空き巣泥棒に注意しましょう。
闇の梯子 父と呼べ 徳五郎 お吉 小説新潮
74年1月号
ちゃんと呼べ、とルビがふられた小説、白髪の老人を襲った親子、父は捕らえられひょんな事から子供寅太の面倒を看ることになった徳五郎とお吉夫婦。寅太はなついてくるが、実の母親おすえが迎えに来て、おっかさんと行くかと言われついていってしまう。残った夫婦の哀れ。普通の江戸市井作品であるが、水辺の風景等が素晴らしい文章で綴られる。美しい作品。
闇の梯子 入墨 おりつ 牧蔵 小説現代
74年4月号
おりつが主人公。姉の営む一杯飲み屋を手伝うおりつ。そのおりつを慕い夫婦約束をする牧蔵。姉を売って其の金を女と持ち逃げした父親がうらぶれて毎日店先に立つ。見かねておりつが遂に店に入れる。姉は無視しつづける。姉の関わりのある島帰りの男が現れ、数々の災難を起こす。結局うらぶれた父親が其の男を殺害。ある意味で子供を守ったことになるが父親はすでに入墨ものになっていた。暗い話である。
闇の梯子 闇の梯子 清次 おたみ 別冊文藝春秋
74年126号
疫病神のような酉蔵と言う男の出現で、金をたかられ女房は重病と、次第に落下して行く生活。兄弥之助のゆすりと関わり、主人の金二十両を猫糞したが病気の薬代と消え、挙げ句発禁ものの彫物に手を出し闇の世界へと落ちて行く。これも暗い話である。女房の病の様子や医者との会話、小さな頃兄が辛夷の木を切るシーンが回想形式で挿入されているが、エッセーを思い出すのは失礼か?。74年の作品で、この作品以降藤沢周平は梯子を上り始めた(明るくなってゆく)という専門家もおられるが、はたしてどうであろうか?。75年作品も結構暗いと思えるが・・。
闇の梯子 相模守は無害 明楽箭八郎 勢津 オール読物
74年1月号
十四年の公儀隠密の役目を無事終えて、江戸に帰ってきた主人公が、調査した藩の江戸屋敷で、排除された人物が復権している姿を見て不審を抱き再び北の藩へ出向く。江戸で身の回りの世話をしてくれる勢津、かつて関わったおつね、二人の女の反応を通して疑問の解決に挑む。結局相模守を殺害し苦難の末、江戸で待つ勢津のところへ足が向く。
闇の梯子 紅の記憶 麓綱四郎 加津 オール読物
74年3月号
加津の家に婿入りが決まっている麓綱四郎。その加津から手紙をもらい寺に出向く。君奸香崎の話をした後、二人は結婚前に結ばれる。その訳は数日後判明。 加津は死を決して、君奸香崎を殺害することを打ち明けたのだった。しかし失敗し死ぬ。綱四郎はその用心棒を殺害し、江戸へ逃げる。或種の剣豪ものである。この本ではジャンルが多少異なる作品。