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江戸市井作品の雑感2

登場する膨大な固有名詞

 何事にも控えめな人柄と言われている藤沢周平氏ですが、私の深川絵図に書いている通り、こと深川及びその近辺に関しては、氏にはめずらしく、かなりの自負心を持っている様子が伺えます。

たとえばどの道がどこに通じ、掘割はどう走り、その寺は何町にあるかと言うようなこと、また深川の町のこことここは、むかしは岡場所と呼ばれる歓楽街があって、また何々橋はどの掘割にかかっている・・中略・・私の書く時代小説は、大体はこういうむかしの地理にしたがって物語をすすめるものなので、現在の江東区に不案内でも、小説を書くのにあまり不自由しないのである。』・・・[私の「深川絵図」]より。

藤沢作品を読み始めて最初のころは、光と影を中心にして美しい江戸の町やそこに住む人人を表現し、こと細かに町並みを描く作家で、池波正太郎作品のおおらかさとはかなり趣の違う作品だなぁ、と思いました。再読、三読するうちに、町並みに対する拘りは半端なものでないことに気が付き、いつかその拘りの凄さを整理してみたい欲望に駆られました。結果の概要は以下の通りです。下記の表は登場する『固有名詞?』の数を表しています。(但し、多少の漏れがあるかもしれません・・・手作業ですので)

固有名詞 登場数 固有名詞 登場数
商売・仕事 409 神社仏閣 160
商いの屋号 449 大名屋敷 62
町名・土地名 440 幕府の施設 53
114 著名な場所 49
川・掘割 55 長屋・裏だな名 51
河岸 24 地方の地名 30
道・通り 23    

いかに江戸切絵図が手元にあったとしても、これだけの固有名詞を探すだけで大変な作業です。とにかく驚いたの一言です。屋号や仕事は江戸切絵図にはありませんし、しかも小説ですので、肝心のストーリーが最も重要なわけですから。それぞれの詳細は個別のメニューでご覧ください。

地図に書かれた作品の凄さ

 膨大な固有名詞を各作品にちりばめているわけですが、これを作品の面から眺めてみますと、その凄まじさをあらためて実感します。短編作品でも各作品それぞれに相当量の固有名詞が登場しますが、長編作品ともなりますと、よくぞこれだけの固有名詞を登場させ、且つストーリーとの整合性を執ったものだと、あらためて感心します。以下は長編作品を大まかに纏めたデータです。

作品名 商・仕事 屋号 土地名 橋・掘割 神社仏閣 合計
用心棒シリーズ(27作品) 87 47 167 57 36 394
立花 登檻シリーズ(24作品) 115 46 140 35 19 355
彫師伊之助シリーズ(長編3) 89 47 127 40 26 329
よろずや平四郎活人剣(24作品) 99 47 130 39 324
出会い茶屋(8作品) 64 19 74 31 19 207
海鳴り 56 36 82 26 204
天保悪党伝(6作品) 47 24 90 22 12 195
本所しぐれ町物語(12作品) 82 55 41 10 191
闇の歯車 38 12 45 26 130
喜多川歌麿女絵草紙 32 34 44 126
闇の傀儡師 24 54 16 13 114

全体的には作品のページ数に比例しているといえます。これらの固有名詞は1作品で複数回登場する(特に屋号は多い)のが普通ですから、多い作品では、1000個以上の固有名詞が登場することになります。一つの作品を読む場合、これらの固有名詞をさら〜と軽い意識で読むのと、じっくりしつこく読むのではエネルギーの消費がかなり異なります。特に江戸切絵図などを片手に読み始めると、ストーリーがどこかに跳んでしまい、読み終わるのにかなりの時間がかかります。しかし面白いこと請け合いです。各作品の詳細は作品単位のメニューをご覧ください。雑感2は以上です。

江戸市井作品の雑感3 に続く

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