トップに戻る

青江松三郎さんの
「秘太刀馬の骨」の継承者

 藤沢周平作品の大ファンとお見受けするハンドルネーム「青江松三郎」さんから、以下のような投稿がありました。「用心棒の青江」からみた「秘太刀馬の骨の継承者」に関するご意見。誠に面白い組み合わせです。ご本人も了解されておりますので以下に掲載をします。尚原文には一切の加筆・修正はしておりません。(体裁や改行などはたーさんの判断で行っております)。

 

 現在もなお熱心なファンの間で議論が続いている、『秘太刀馬の骨』の継承者問題。僕はついに真の馬の骨の継承者をつきとめることに成功しました!。(…無論、僕の勝手な説にすぎず、これが正解というわけではありませんが…)

 ですが正直なところ、自分でもこの結論には驚きました。きっとこの文章を読んだ人も驚くはずです。多分(笑)。なお、申し遅れましたが、今回、この説を発表する場を与えてくださったたーさんに、この場を借りて厚く御礼申し上げます。どうもありがとうございました。

 …では、あまり引っ張るのもなんですので、このへんで結論を申し上げましょう。ゴホン。
えー・・・真の馬の骨の継承者、それはなんと
不伝流矢野家当主、矢野藤蔵だったのでしたー!!
ジャジャーン♪さあ驚け。

 …あぁっ怒らないでぇ! すみません、ちょっとやってみたかっただけなんです(^^;。 でも、本当に僕の結論では矢野藤蔵なのです。ただそれが意外なのには理由がありまして、それは最後までお読みくださればご理解いただけると思いますので、よろしかったら僕の駄文にお付き合いください、相当長いですが。…いやほんとにすみません(平伏)。

あ、その前に
 ・これは単なる僕の仮説であって、正解ではないこと。
 ・以降ほぼ断定調で進行しますが、煩雑さを避けるための措置であり、他意はないこと。
 ・現在、僕は自分のパソコンが半壊している状態のため、ネットもままならない状態が続いておりまして、
  誠に恐縮ながら、ご意見・苦情等は僕のパソコンがいつか復活するまでお待ちいただきたいということ。
上記についてご留意くださるよう、よろしくお願い申し上げます。
どうか間違ってもたーさんに苦情しないでくださいませ。僕のせいでたーさんが叱られるのはしのびないです、
はい(^^;  ・・・てか僕のパソコンはいつ直るんだろう(涙)

2006.12.24  青江松三郎    

 えーそれでは本題であるところの、なぜ矢野藤蔵と結論づけたかについて書かせていただきます。

まず理由その1
 矢野藤蔵以外の継承者候補は、それと断言するには疑問符がつく部分が多い、ということ。例えば浅沼杉江を継承者とした場合、先の家老望月四郎右衛門を暗殺した犯人がこの人だってのは、ちょっとなんだかイヤじゃありませんか?。少なくとも僕はそんな血塗られた杉江はイヤです(笑)。その他の候補についてもやっぱり疑問符がつきますね。ただそれを個々に挙げていくと、べらぼうに長い文章になってしまいますのでここでは書きません。結果として疑問符の少ない矢野藤蔵を僕は継承者と判断しました。

そして理由その2。実はここがキモです。
 『秘太刀馬の骨』の本当の姿が見えてきた、ということ。貴方が今イメージしている『秘太刀馬の骨』とは、どういうものでしょうか。おそらくは「相手の懐にもぐりこみ、相手の剣の下をかいくぐりつつ、首の骨を両断し絶命させる剣」というようなものではないでしょうか。でもそれは『馬の骨』の正体ではないかも知れませんよ…と言ったら驚きますか?(笑)

ちょっと整理してみましょう。まず、なぜ『馬の骨』がそうしたものだと思われたのか。
 ・「下僕の死」の章における、矢野惣蔵と暴れ馬のエピソードから。
 ・「御番頭の女」の章、北爪平九郎との試合後の銀次郎と半十郎のやりとりから。
  「『馬の骨』は切り放す剣である。笠松六左衛門もそう言った」
 ・出久根達郎氏の解説で断言されているから。
などが根拠でしょう…が、よくよく考えてみるとこれはおかしい。今挙げたどの根拠も、『馬の骨』の正体を知らない人による判断にすぎないのですから。

 ならば『馬の骨』とはどういう剣なのか。我々の知る限り、『馬の骨』がどういうものであるのかを正確に知っていると思われる人物は3人だけです。
  1人目は、言うまでもなく作者です。
  2人目は、『馬の骨』の継承者です。
  3人目は、元の大目付笠松六左衛門です。
このうち作者と継承者は我々に何も語ってくれません。当然ですが・・・。また笠松も「直接には」我々に語ってくれません。これまた当然ですが。従って我々は、笠松の言動から『馬の骨』がどういうものであるか判断しなくてはならなかったのです。では、笠松の言動とは。
  1.七年前。望月家老暗殺事件、検死の際に「ほう、『馬の骨』か」とつぶやく。
  2.現在。『馬の骨』の存在に疑問を感じ始めた浅沼半十郎に対し、「『馬の骨』を遣う者はいる」
 「自分は『馬の骨』がどういうものか聞き知っている、望月家老の傷は確かに『馬の骨』によるものだった」
という2点だけです。…ん?ちょっと待てよ。すると、先に挙げた北爪平九郎と石橋銀次郎の試合後の半十郎の感想が引っかかってくるではないか。「『馬の骨』は切り放す剣である。笠松六左衛門もそう言った」これは笠松が『馬の骨』の正体を半十郎に伝えたからそう思ったものなのではないか。いいえ。実はこれ、作者が仕掛けた大きな落とし穴だったのです。

 浅沼半十郎(と、読者)は、暴れ馬のエピソードから、『馬の骨』を前述のような豪剣ではないかと推測します。そして『馬の骨』の正体を知る笠松とのやりとりで、それを正しい推測だと信じてしまったのですね。しかしもう一度、笠松とのやりとりをよく読んでください。笠松は『馬の骨』について、切り放す剣だとは一言も言っていません。そもそも半十郎自身が、「馬の骨とはどういう剣ですか?」とは訊いていないのです。もちろん、半十郎の質問「すると七年前の望月さまの傷は?」には、その意味も込められていたでしょう。しかし笠松はそう受け取らなかった。単に「望月家老は『馬の骨』で殺されたのか?」という質問だと受け取った。このお互いの微妙な解釈の違いが、半十郎(と、読者)に『馬の骨』の正体を読み誤らせることになるのです。

 無論、このことは「笠松は半十郎に『馬の骨』の正体を伝えていない」という証拠にはなりません。書かなかったけれど伝えていたのかもしれないし、または後日伝えたのかもしれません。しかし、伝えているのであれば、作者はそのことをハッキリ読者に示さなくてはならないのです、本来ならば。

 そうでなければ読者は混乱してしまいます。実際僕は「切り放す剣であると言っていた」という唐突な説明に、かなり戸惑いました。説明を読み落としているかも知れないと本を何度も読み返し、どうやら書いてないようだとわかると、今度はその書かれていない部分を脳内補完する。よくあることと言われればそのとおりですが、このポイントで読者にそれをさせるのは随分不親切ではないでしょうか。

 まして他の作者ならいざ知らず、あの藤沢周平が、こんな重要なことを読者に知らせないなどということがあるでしょうか。ありえません。もしあるとするなら、そこには明確な意図が隠されているはずです。そしてその意図とは、『馬の骨』の正体隠しにほかなりません。作者はこうすることで、読者の目をたくみに『馬の骨』から逸らしていたのです。事実これ以降、半十郎(と、読者)の興味は「『馬の骨』の継承者は誰なのか」に絞られてしまっています。「『馬の骨』とはどういう剣なのか」という根本的な疑問を置き去りにして。ですから、我々はもう一度、先入観を捨てて『馬の骨』探しを始めなくてはならないのです。

 では、そもそも『馬の骨』は存在するのか。笠松六左衛門の話によれば、『馬の骨』は存在します。ならば、『馬の骨』の本当の姿とは何か。七年前に暗殺された望月家老の傷口は、『馬の骨』によるものでした。では、望月家老の受けた傷とは?。もう一つ物語のラストで暗殺された小出家老(赤松織衛ではない)の受けた傷とは?。

 長坂権平の言葉を思い出してください、おわかりでしょうか。『秘太刀馬の骨』、その本当の姿とは、刺殺術だったのです。「隠し剣鬼ノ爪」にも似た、目標を一刺しで死に追いやる、まさに一撃必殺の刀法・・・。矢野家先々代当主である矢野惣蔵は、「暴れ馬の骨を断ち、一撃で絶命せしめた剣」をもとに、『秘太刀馬の骨』を編み出しました。しかしそれは「首の『骨を断ち』、絶命せしめる剣」ではありません。本当は「暴れ馬の骨を断ったときのように、『一撃で絶命せしめる剣』」だったのです。

 望月家老の死因、小出家老の死因、一撃で絶命。『馬の骨』の正体を、特殊な刺殺術であると読んだ理由です。そしてその遣い手は、小出家老を暗殺した矢野藤蔵であると僕は考えるのです。

白炭やあさ霜きえて馬のほね
                            以上

追記:
「真の馬の骨の継承者」とは…
「馬の骨の本当の継承者」を指したものではなく、「本当の馬の骨の姿と、その継承者」を指したものです。

追追記:
・・・てな感じなのですが、いかがでしょうか(笑)。結構驚いていただけたのでは?。自分でも驚いたのですが、馬の骨の正体をこうしてみると、今までかかえていた疑問がほぼ解決するんですよね。無論これが正解というわけではないんですが、ちょっと自説に酔っている青江でした(笑)。それでは長らくのおつきあい、ありがとうございました。

青江松三郎さんのパソコンが直り次第返信可能とします。

たーさんの一言・・・秘剣ではなく、なぜ秘太刀なの・・秘剣と秘太刀はどう違うの。

ご意見その他はとりあえず  こちら  迄 青江松三郎さんに転送します。