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人名に対する藤沢周平氏のこだわり

データベースとして整理した結果、創造された人物名4700名余りが登場する藤沢文学。多少調べてみましたら、周平氏はそれなりのこだわりをお持ちになっていたようです。

「株式会社文藝春秋」が発行した「オール讀物1992年10月号は、名作『秘太刀馬の骨』の最終回が掲載された号ですが、本号は『特集 藤沢周平の世界』として、藤沢周平氏の特集号でもあります。
その中に、周平氏と評論家岡崎満義氏の対談
 (QA形式)『なぜ時代小説を書くのか』が掲載され、その一部分で人名、タイトルに関するお話をされています。以下に引用させていただきます。尚、全文は文藝春秋刊行「藤沢周平のすべて」(97年10月25日初版)に掲載されています。

岡崎 今回、編集部で十三人の作家、評論家の方々から藤沢さんに対する質問をあらかじめ出してもらっていますが、その中の一つに、藤沢さんの登場人物の名前のつけ方が上手なので、どうやってつけるのかを知りたい、というのがありました。
藤沢 いろいろ考えますけれども、うまくできるときと、どうやってもダメなときとあります。大体、登場人物の名前をうまく思いついたときは、小説もうまく書けますね。それがどうも気に入らない、堅苦しいような名前しか浮かんでこないときは、筋の方もうまくいくませんね。わたしは名前を付けるのはうまい方ではないと思いますよ。うまいのは池波正太郎さんでしょう。「鬼平犯科帳」の盗賊の名前なんかすごいですよ。
岡崎 名前がすんなり付くということは、人物のイメージが非常にはっきりしてくることなんでしょうか。
藤沢 そうですね。
岡崎 何か武鑑のようなものを使うのですか。
藤沢 武鑑は見ませんが、庄内藩の分限帳みたいなものはよく見ます。でも小説に使いたいような名前は限られていますね。殆んどが何々左衛門、何々右衛門、何兵衛ですからね。「蝉しぐれ」の牧文四郎なんか、うまくいった方でしょう。これは江口文四郎さんという田舎の友人がいまして、それからもらったものです。小説には、それらしい名前が必要なんですね。
岡崎 女性の名前はどうですか。
藤沢 女性は一応、自分で拾い集めたり考えたりしたのがアイウエオ順でそろえてあるんですけど、もう大概使ってしまいました。結局また、同じものを使うしかないですね。武家の女性の名前でも、市井物の女の名前にしろ、小説にして映えるような名前は限られていて、いくらもないんですよ。
岡崎 小説のタイトルはどうですか。
藤沢 これもあまりうまくないですね。
岡崎 タイトルをつけるのは小説を書き始める前ですか。書いたあとに付けるんですか。
藤沢 最初ですね。それがうまく付いたときは、すごく勢いがいいですよ。反対になかなか考えがつかなくて、締切りがせまるのでともかく書きはじめ、途中でやっと付ける、ということもあるんですけれど、そういうときは何かずっと気がかりがある感じで、あんまり出来はよくないですね。最初にパッと出来たのは、いいです。「ただ一撃」なんていうのは、もうそのタイトルだけで小説ができたようなものでした。(笑)
岡崎 人名やタイトルがパイロットみたいに創造力をかきたて、ぐんぐんストーリーを引っ張ってゆくのかもしれませんね。
藤沢 そう、そう。名前だってそれらしい名前を付けてやると、物語をどんどん引っ張るんですよ。だからちゃんとした名前を付けてやらないと、人物がぶんむくれてあまり働いてくれないようです。(笑)

藤沢周平氏の人名やタイトルに対する拘りが十分に伝わってきます。映画化やドラマ化でタイトルや主人公、その他の名前を勝手に変える等の行為は、まさに言語道断と言うべきでしょう。変えられた人物が働かなくなります。(笑)

単なる一ファンではありますが、私も以前から『本当に上手な名前を付けるなぁ』と感服しておりました。多分ノートなどで整理をされておられるのであろう等と、勝手に想像をしていましたが、思い切ってどんな名前があるのかを整理したくなり、登場人物データベースを掲載してしまいました。著者に対して失礼で些かやり過ぎかなぁ、そんな思いをしております。

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2005年5月23日  たーさん記述。

 

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